相続税に関する平成29年度税制改正大綱
去る平成28年12月8日に
平成29年度税制改正大綱が自民党から発表されました。
税制改正大綱とは、来年以降に税金に関する法律等を変更する「案」のようなものです。
ただ、例年その案がほぼそのままの形で承認され施行されます。
相続税に関する改正点については、個人的に注目の変更点としては、以下のとおりです。
- 納税義務者の範囲の変更(非居住無制限納税義務者の範囲の変更)
- 取引相場のない株式の評価における類似業種比準価額の比重割合の変更
- 広大地の評価減の計算方法の変更
- タワーマンションの高層階における固定資産税の増税
目次
納税義務者の範囲の変更
納税義務者の規定は、誰が相続税を払うのかを決めている規定です。
相続税の租税回避を目的として、海外に移住する方がいるようです。
そこまでして税金で苦労される方はなかなかお目にかかることはありませんが。。。
今までの相続税(贈与税も含む)の法律では、
「海外に移住したとしても、日本国籍を持っていれば、
財産を貰った側と財産をあげた側のどちらかが日本に5年以内に住んでいた場合には、
相続(贈与)の時点で海外に住んでいても国内海外問わず、日本の相続税(贈与税)がかかる。」
ということでしたが、今回その期間が5年から10年に延長されました。
結論として、財産をあげる側も貰う側も日本国籍のまま海外にいる限り、10年超そこにいないと納税義務者からは除外されないということになります。
なお、国籍を変えれば、海外に住んでいれば従来から日本の相続税はかからないのは従来と同じです。
取引相場のない株式の評価における類似業種比準方式よる比重要素割合の変更
中小企業の株式など、上場されていない株式の評価は明確な時価がないため、
相続税の世界では時価に相当する株価の計算方法が定められています。
その中の一つに、似たような規模の世間一般の会社を参考に株価を決めましょうという方法があります。
これが類似業種比準方式です。
会社の配当金、利益、純資産と世間一般の会社のそれらとを比べて
株価の高い安いを決めます。
今までは、配当金、利益、純資産の3つの要素を1:3:1として、利益の影響を重要視していました。
それが今回の改正で、1:1:1となりました。
利益の比重が下がったことにより、どのような影響があるかというと、
利益が沢山出ている会社には有利になり、
利益が出ていない会社には不利になります。
また、利益の比重が下がる=配当金の比重が上がることになり、
配当金の要素で株価を有利に調整する方法(利益が赤字、純資産がプラスの会社で少額の配当を出すことによって
比準要素数2の会社にして類似業種比準方式を採用する方法を選択)により計算した金額が大きくなり、
今までよりは若干不利になります。
(細かい説明をすると終わらなくなるので省略させて頂きます)
広大地の評価減
広大地とは、宅地分譲するのが最も有効利用できる一定規模の土地で、開発道路を設ける必要がある土地を言います。
広大地に該当すれば、どんな形の土地でも土地の評価額を最大65%下げることができます。
減税の効果からも、相続税の計算において、その適用について注意しないといけない規定の一つです。
今回、この評価減の計算方法が変わります。
真四角の整形された土地と、いびつな不整形な土地で計算が変わってきます。
税制改正大綱では、具体的に評価減の割合が上がるのか下がるのかは分かりません。
なお、適用要件などは変更がないようですので、該当するか否かの判定は従来どおりとなるようです。
税理士としては、開発道路の施設方法(開発図面における道路の入れ方)を具体的にして欲しいものです。
居住用タワーマンションの高層階における固定資産税(不動産取得税も対象)の増税
こちらの改正は、相続税ではなく、固定資産税についてです。
高さが60メートル(およそ20階)を超える建物の固定資産税の総額を求め、
階層によってマンション全体の固定資産税に差を付けることになります。
高層階は税金が多く、低層階は税金が少なくなります。
例として、40階建てのマンションにおける40階の部屋だと1階の部屋の固定資産税の10%増になります。
発表前には、固定資産税における建物の評価額見直しに伴い、
相続税におけるマンション評価額の割増が図られるかもという話しでしたが、
蓋を開けてみれば、今回の改正では変更はなし。
今まで通り高層階、低層階とも同一の評価額で評価を行うということになりました。
相続税対策としては、
老い先短い方に市場価値の高い高層階のマンションを購入させ、
亡くなって相続になったら安い固定資産税評価額(市場価値の6割程度)で相続税を計算し、
その後すぐに買った時の価格に近い価格で売却するというスキームがありますが、
これがまた続くことになります。
あれだけニュースになっていたのに、相続税において変更がないことに少し驚きです。